CNF(セルロースナノファイバー)は、森林資源を微細化した繊維で、軽量かつ高強度でありながら生分解性を備えた次世代素材です。環境にやさしく、プラスチックの代替や建材、自動車部品などへの応用が期待されています。一方で、微細加工や均一性の確保が難しく、量産化やコスト面での課題も残ります。
リッパー株式会社では、このCNFを活用したホワイトタイヤの開発に挑戦し、耐久性や性能を保ちながらCO₂削減にも貢献する事例を生み出しています。今回は、持続可能な素材としてのCNFの可能性を現実の製品に結びつける取り組みについて、鈴木社長にお話を伺いました。
ネイチャーポジティブタイヤ(環境タイヤ)の開発
CNFを用いた環境タイヤを開発しようと考えたきっかけは何ですか?
私たちが環境タイヤの開発に乗り出したのは、やはりタイヤの製造や使用による環境負荷に対して強い危機感を持ったことがきっかけですね。特に、タイヤが摩耗することで出る微細なゴム粉塵や、廃棄タイヤの埋め立て・焼却によるCO₂排出、それに海洋プラスチック問題などが大きな課題として注目されています。最近ではヨーロッパを中心にこうした環境負荷への規制も強まっていて、業界全体で環境に配慮したタイヤ開発が求められるようになっています。
そこで私たちは、こうした課題に挑戦する“ベンチャー的な試み”として、環境負荷を抑えたタイヤづくりに着手しました。その中でCNF、つまりセルロースナノファイバーに注目したのは、国や地元自治体が進めるCNF研究の動きがあること、さらに地元で試作やサンプルを取りやすい環境が整っていたことが理由です。CNFは軽量で強度が高く、環境負荷を下げる可能性が大きい素材でもあります。
もちろんCNFだけに限らず、リグニンなどの森林系バイオ素材やリサイクル材料、既存の化学薬品の代替となる新素材など、さまざまな材料を試しながら、持続可能なタイヤ開発の最適解を探っています。CNFはあくまで多くの可能性のひとつであって、環境負荷低減に向けた取り組み全体の一環に過ぎません。私たちはこれからも新しい素材や技術に挑戦し続け、環境にやさしいタイヤづくりを進めていきたいと考えています。
\1分で学べる!CNFとは?/
環境タイヤの開発にあたり、苦労した点はありますか?
まだ開発は途上なので、正直、苦労は引き続きありますね。特にバイオ素材の部分は難しいです。バイオというと聞こえはいいんですが、石油由来の素材と比べると性質が均一でなかったり、価格が高かったり、場合によっては製造時にCO₂が多く出てしまうこともあります。私たちはこれを“バイオペトロギャップ”と呼んでいて、バイオ素材と石油系素材の間にはどうしてもギャップがあるんです。
例えば、籾殻から素材を作ろうとすると、たくさん集めないといけませんし、地域や品種によって性質が微妙に違うこともあります。リサイクル素材も同じで、物性が新品(バージン)には届かないことがあり、こうした課題は本当に多いですね。
それでも、私たちはこうした課題に挑戦しながら開発を進めています。業界全体でも、2050年までに全てのタイヤ素材をサステナブルにする、という目標を掲げていますので、環境タイヤの実現に向けて、引き続き取り組んでいるところです。
環境タイヤの実証実験を経て、導入が始まっていますね。手応えはどうですか?
手応えですか…そうですね、正直に言うと『まあまあ』ですね。すごく手応えがあるわけでもなく、逆に全くないわけでもなく、ちょうど中間くらいです。これからだな、というところですね。
私たちもホワイトタイヤ自体に特別こだわっているわけではありません。環境に優しいタイヤの中で、ホワイトになるかどうかは、入れる素材の組み合わせ、例えばカーボンブラックを入れるかどうかで変わってきます。先ほどもお見せした通り、タイヤには有害物質も含まれていたりするので、それを減らすこと自体が非常に重要な貢献になるんです。そういう意味で、ホワイトタイヤの開発も含め、地道に取り組んでいる状況です。


















