ダイナリー図書館では、これからの地球のために、自分ごととして環境問題に取り組むキッカケとなれるよう、カンキョーダイナリー(環境>)おすすめの本や映画などをご紹介していきます。
エネルギーと気候変動の関係性を考えたことはありますか?
だれも普段意識することがない、それが「エネルギー」
朝、スマートフォンのアラームを止める時、通勤電車に揺られる時、自動販売機で缶コーヒーを買う時、それら全ての動力として「電気」が使われていると意識することはあるでしょうか。
そして、その「電気」がどこで、どんな資源をもとに、どんな方法で作られて、どう運ばれてきて、どうやって目の前の自動販売機を動かしているのだろう。 そんなことを考えたことがある人はきっと少ないと思います。
それもそのはず、日々の生活の基盤であるエネルギーは、あって当たり前のインフラストラクチャー。「今日はちょっとやる気が出ないので発電量落としてます」「今日の缶コーヒーはちょっとぬるいけど、許してね」なんてことはあってはならないのです。
頼れる専門家に教えてもらおう
本書は、フランス人漫画家のクリストフ・ブランが地球温暖化に対する不安に駆られ、エネルギー専門家であるジャン=マルク・ジャンコヴィシに連絡をとることから始まります。
エネルギーと気候変動の課題を深く覗いてみると、どんどん明らかになる人間社会の発展の歴史とその功罪。
生活の根幹であるからこそ一筋縄には行かないエネルギー問題を、クリストフとジャンと一緒に巡り、考えることができるのが、本書の一番の魅力です。
エネルギーをとりまく可能性と限界
様々なエネルギー資源
物理的な原則として「エネルギー保存の法則」というものがあります。それは、エネルギーの総量は常に一定であり、新たに生まれることや消えることはなく、ただ形を変えるだけであるという法則です。人間の体から生み出せるエネルギーが人間の体以上の量になることはなく、それ以上のエネルギーが欲しければ、私たちはそれを外から取り出してくる必要があります。
例えば、地球から採掘することができる石油やシェールオイルといった資源は人間の発展の歴史を語る上で欠かすことのできない存在ですが、CO2の大量発生という問題の原因の一つになっています。
非化石エネルギー(風力、水力、太陽光、原発など)ならばCO2発生は比較的少量に抑えられますが、稼働が不安定だったり安全性やコストの議論にまだまだ時間がかかったりといった課題があります。一概に「良いエネルギー」と呼べるものはなく、私たちは常に考え続け、その上で取捨選択をする必要があります。
\再生可能エネルギーの基礎がわかる!/
私たちの暮らし
ああでもない、こうでもないと考えている間にも、私たちの暮らしは続きます。住まうこと、食べること、移動すること…どんな営みにもエネルギーは欠かせません。
例えばフランスのカーボンフットプリント(※)のうち25%を占めているのは食品で、そのうちの半分にあたる12.5%が牛の畜産によるものです。牛肉の消費量を減らすことでその分のCO2排出量を削減できますが、それは消費者の努力だけでは実現することはできません。生産者にも、これまで是とされていた「安いものを豊富に生産する」体制の見直しが求められており、その変化を支えるような社会システムや政策の整備も必要となります。
(※)カーボンフットプリント:製品やサービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに⾄るまでのライフサイクル全体を通して排出される 温室効果ガスの排出量を CO2 排出量に換算し、製品に表⽰された数値もしくはそれを表⽰する仕組み。
\日本のエネルギー利用の現状は?/
まずは知ることからはじめよう
本書の良いところは、とにかく多角的な知識に溢れているところ。物理的な前提知識から始まり、歴史・暮らし・政治・テクノロジーなど、様々な観点からエネルギーの現状を知ることができます。加えて、ユーモラスなイラストと淡々と進んでいく二人のかけ合いが心地よく、環境問題についてしっかり学べるのに心軽やかであるというのも、読み手としてはありがたいところ。
私たちの何気ない日常がエネルギーとつながっていることを知れば、きっと世界の見え方が少し変わるはず。完璧な答えはないけれど、だからこそ一人ひとりが学び、考え、行動していくことに意味があるのだと思います。この本を読んで、あなたも身近なエネルギーについて考えてみませんか。
【著者紹介】
著:ジャン=マルク・ジャンコヴィシ
1962年生。エンジニアリング・コンサルタント。フランスの環境問題施策をサポート後、経済学者アラン・グランジャンとCarbone4コンサルタントを設立。フランスの主要な炭素算定方法の開発者でもある。
著:クリストフ・ブレイン
1970年生。漫画家。アングレーム国際映画祭で最優秀グラフィックノベル賞を2度受賞。著書に『Quai d'Orsay, Chroniques Diplomatiques』他、各言語に翻訳されている。
監訳:古舘 恒介(ふるたち・こうすけ)
日本石油(現ENEOS)に入社し、リテールから探鉱まで広範な事業に従事する傍ら、エネルギーと人類社会の関係を研究している。著書に『エネルギーをめぐる旅―文明の歴史と私たちの未来』がある。現在、JX石油開発在籍。
訳:芹澤 恵(せりざわ・めぐみ)
翻訳家。成蹊大学文学部卒業。主訳書に R・D・ウィングフィールド「フロスト警部」シリーズ、平原直美『ヒロシマ・ボーイ』、『世界を変えた100人の女の子の物語』、『自分を信じた100人の男の子』ほか。
訳:高里 ひろ(たかさと・ひろ)
翻訳者。訳書に『ナポレオンに背いた黒い将軍』『世界を変えた100人の女の子の物語』『専門知は、もういらないのか』など多数。
【作品詳細】
出版社:河出書房新社
発売日:2023/12/04
言語:日本語
単行本 200ページ
\読みたい本がきっと見つかる!/