日本の家庭のタンスには、いまも多くの着物が眠っていると言われています。
かつては人生の節目を彩ってきたそれらの着物は、時代の変化とともに着られる機会が減り、その多くが使われないまま保管され、やがては手放されてしまうことも少なくありません。
一方で近年、ファッション業界では大量生産・大量消費による環境負荷が問題視され、「サステナブル」や「エシカル」といった価値観が世界的に注目されています。そうした流れの中で、日本の着物文化が本来持っている「繰り返し使える構造」や「長く受け継ぐ思想」が、改めて見直され始めています。
そんな中、着物に新たな命を吹き込み、“もう一度生きる服”へと生まれ変わらせる活動を行っているのが、「着物転生デザイナー」安楽きわさん。今回は、着物転生という独自の取り組みを通して見えてきたサステナブルファッションの可能性や、日本と海外の価値観の違いについて、安楽きわさんにお話を伺いました。
タンスに眠った着物に新しい命を
ご自身の活動について教えてください。
日本の多くの家庭には、今もなお「着物」が眠っています。成人式や結婚式、七五三など、人生の節目に寄り添ってきたその一着は、役目を終えたあと丁寧に畳まれ、タンスの奥へとしまわれていきます。それは決して不要になったからではありません。むしろその逆で、「大切だからこそ使えない」という、日本人特有の感覚がそこにはあります。しかし、その結果として着物は再び袖を通されることなく、静かに時を重ねていくことになっているんです。

▲自身の活動について話す安楽きわさん
そんな着物に、新しい命を与えるのが私の活動です。現在の主な仕事は、お客様から預かった着物を元に衣服を制作することです。最近では、ブランドやクリエイターからの相談も増え、「新しい価値をどう生み出すか」という視点での関わりも広がっています。
着物転生デザイナーは単に服を作るだけではなく、その着物が持っている背景や思いも含めて、次につなげていく仕事だと思っています。
ファッションや着物に興味をもったキッカケは?
私が小さい時は、祖母が私の洋服を仕立ててくれていて「ものを作る」ことがごく自然な環境で育ちました。そんな中で私自身も折り紙や粘土など、手を動かして形を生み出すことに楽しさを感じるようになっていったんです。
▲安楽きわさんに着物に関わるキッカケを与えたちりめん細工(作|浜 肇子)
そして高校生のとき、人生を変える出会いとなったのが人形作家の「浜いさを」さんと、その奥様の「浜 肇子(はまはつこ)」さんに連れられて訪れたアンティーク着物屋で見た、色とりどりの反物。
「おばあちゃんの着物とも、振袖とも違う。こんなに自由で、かわいい世界があるんだ。」ということに衝撃が走り、その瞬間「これを洋服にしたら絶対にかわいい!」という直感につながりました。それがわたしが着物に興味を持ったキッカケです。
名前に込められた想い
肩書きの着物転生デザイナーとは?
自身の活動を表現する時、もともとは「アップサイクル」という表現を使っていたんですが、日本では当時あまり一般的な言葉ではなくて、ニュアンスも理解してもらえないなと感じることがしばしばありました。そこで日本人に「もっと直感的に伝わる言葉」で活動したいと思っていて、中学生だった息子に聞いたんです。「どの言葉が一番わかりやすい?」って。そしたら『転生』がいいんじゃない?と言われて。中学生が知っている言葉なら浸透もしやすそうじゃないですか?

『転生』という言葉には、一度終わったものが新たな形で生まれ変わるという意味があります。素材としての再利用だけでなく、そこに込められた記憶や時間までも引き継ぐ。その思想が、この言葉にしっかり込められている気がして「これにしよう!」と思ったんです。
着物って、生地だけじゃなくて、職人の技術もあるし、着てきた人の人生もある。それも含めて次につなげていくということをイメージしていただきたくて、単なるリサイクルやリメイクとは少し違った捉え方をして欲しい、というのがこの肩書きに込めた想いですね。
なぜ着物を転生させるのか
着物文化とサステナブルには関連性があるんですか?
着物は、本来とてもサステナブルな衣服です。平面構造で作られているため、解いて洗えば再び反物に戻すことができ、何度でも仕立て直すことができます。この「循環する構造」は、現代のサステナブルファッションの考え方と本質的に一致しています。
しかし、現代の日本ではその価値が逆転してしまっています。国民性という言葉に尽きると思うのですが、「価値があるから使わない。もったいないからしまっておく。」この心理が、結果として着物を“使われない存在”にしてしまっている気がします。

さらに驚くべきは、その量。着物は日本国内に約8億点眠っているとも言われ、毎年大量に廃棄されているという現実があります。一方で、海外ではまったく異なる価値観が見られます。海外でのお祭りや展示会に参加する上で実際に多くあったのが「もったいないから使いたい」という声。日本と真逆ですよね。この違いは、単なる文化差ではなく、サステナブルに対する意識の差でもあると思っています。
この、着物が持つ持続可能性、日本国内に秘められた物量、海外からの注目、という3点から感じる魅力が私の活動の原動力となっています。













