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さかなのおにいさん かわちゃん|伝えることで子どもと海の架け橋に

さかなのおにいさん かわちゃん|伝えることで子どもと海の架け橋に

魚の「オモロい」生態や海の大切さを、イラストや歌で伝えることで子どもの好奇心を育て、海の豊かな未来に向けて活動を続けるさかなのおにいさん かわちゃん。

 

テレビの番組ナビゲーターやラジオDJなどを通して培った「伝える」経験を背景に、さかなのおにいさんとして活動する中で感じている想いを伺いました。

さかなのおにいさんの活動

オモロく伝える魚の魅力

「さかなのおにいさん かわちゃん」という肩書きで、イラストや歌を通して、子どもたちに魚の“オモロい”生態や海の大切さを伝える活動をしています。

テレビの情報番組で、魚や水族館を紹介したり、ラジオDJ、本の出版やイベントでの講演など活動内容は幅広いです。


さかなのおにいさん かわちゃん[全国クセすご!水族館図鑑]

さかなのおにいさん かわちゃん著「全国クセすご水族館図鑑」(中央公論新社)

 

他にも、例えばテレビ東京のシナぷしゅという知育番組で流れている魚のうたは、作詞・作曲・うた・イラストを担当しています。

 

かわちゃんが作詞・作曲・うた・イラストを担当した魚のうた

 

関西で育ったというのもあって、小さい時からオチのない話は、誰にも聞いてもらえなかったんです。親からも「お前の話、オチあるんか?なかったら聞かへん」て。そういう環境もあって、子どもにとっても楽しく聞けるように、4コマにオチをつけたり、クイズができるようにして、魚の魅力をオモロく、分かりやすく伝えています。そうすることで、子どもたちに魚を好きになってもらい、未来の海を豊かにできたらと考えて活動しています。

魚との出会いが繋いだ縁

実家の玄関の水槽で、大きな黒い魚を飼っていたんですが、親からは、物心ついた時からクジラの赤ちゃんって言われてたんです。僕も、クジラのくーちゃんって呼んで可愛がっていたんですが、幼稚園に入って、魚に詳しい友だちが家に遊びに来たときに、くーちゃんを紹介したんです。そしたら、「クジラじゃないと思うよ」って言うので親に聞いてみたら、「アホやなあ、ナマズに決まってるやん」て。小さい時から身近に魚はいたんですが、その時に教えてくれた子と一緒に魚の図鑑を見て過ごすことで、どんどん魚が好きになっていったんですね。

 

でもその子が、小学生の時に転校してしまったんです。とても寂しかったんですが、お別れのしるしに一番大事にしていた魚の図鑑をくれました。その後も、一人で魚の図鑑を眺めたり、釣りをしたり、水族館に通ったりして、気付いたら僕も魚の世界にハマっていました。


さかなのおにいさん かわちゃん[さかなと触れ合う幼少期]

魚の世界にハマっていった幼少期

 

実はその図鑑をくれた子とは、ラジオ番組の企画で再会したんです。会ってみると、彼もずっと魚が好きで、今は生物の先生をしていました。不思議なのは、小さいときにヤクルトを飲みながら魚の図鑑を一緒に読んでいたように、再会したその日に海鮮居酒屋でビールを飲みながらお刺身を食べて、大人になっても変わらずに魚の話をずっとしているんです。魚がきっかけで繋いでくれた大事な縁だと思うし、魚には感謝しています。

伝える仕事を通して得た経験

さかなのおにいさんとしての活動以外にも、川田一輝(本名)としてずっとやってきたのがラジオDJアナウンサー声優の仕事なんです。テレビやラジオなど、限られた時間の中で要点を伝えるという仕事を通して、伝える技術を勉強してきました。僕が他の魚類学者やサイエンスコミュニケーターと違うのは、伝えるということを重視している点。「どうしたら大好きな魚の魅力が人に伝わるか」ということをメインに考えて活動しています。


さかなのおにいさん かわちゃん[ラジオDJとして活躍]

川田一輝として、ラジオDJの仕事を受け持つ

 

ただ、子どもに集中して話を聞いてもらうのはとても大変なんです。最初のイベントの時はとても苦労したんですが、魚の魅力を伝えるために、紙芝居にしたり、4コマ漫画にしてオチをつけたり、クイズをいれたりして、子どもたち一人一人が魚に興味がなくても楽しめるようにしています。伝えるという経験が先にあったことが、今のさかなのおにいさんとしての活動に活きていると思っています。


さかなのおにいさん かわちゃん[イベントや講演活動も積極的に行う]

さかなのおにいさんとして、お子さん向けにイベントや講演活動に取り組む

海の環境問題に目を向けたきっかけ

ある日、担当している水族館のラジオ番組に、4才の男の子のお母さんから手紙が届いたんです。海水浴場で潮干狩りをした時に、男の子が貝と同じくらいの量のゴミをどっさり拾って持ってきたので、理由を聞くと「大好きな魚が泳いでいる海に、ゴミがあるとかわいそうやろ?」と当たり前のように言ってくれた、というお話です。

 

この手紙がとても嬉しかったのと同時に、この子にとって「魚が泳ぐ海」を「友だちの家」と同じように想ってくれているんだと衝撃を受けました。それまでは、単に「魚が好き」という想いで活動していたんですが、この手紙をきっかけに、僕が魚の魅力を伝えていくことで、未来を担う子どもたちに、豊かな海を守るバトンを繋いでいくことができるんじゃないかと、環境に対して意識を向けた瞬間でした。


さかなのおにいさん かわちゃん[子どもたちに向けて、魚の魅力を伝えていく]

海の環境を取り巻く課題

過渡期を迎えている水族館

昭和の水族館ブームを経て、近年、建物の耐久年数の問題で続々と水族館の建て替えが進んでいます。一方で、コロナ禍で商売が成り立たず、建て替えもできずに潰れていく水族館もたくさんあるんです。さらにはアニマルウェルフェア※という考え方のもと、2026年にはフランスでシャチ・イルカショ-が法律で禁止になったり、国内でも、イルカに愛玩目的で名前をつけない水族館がでてきたりと、世界的に水族館の生き物への商業的な取り扱いが見直され始めています。

 

僕が水族館の魅力を発信しているのは、子どもたちの身の回りに水族館があってほしいからなんです。いきなり子どもたちに対して「海に潜って生物の多様性を見てみよう」って言っても無理じゃないですか。僕の意見としては、海の生き物に興味を持つきっかけとして水族館は身近にあって欲しいし、生の命に触れられる場所はこれからも必要だと思ってます。


さかなのおにいさん かわちゃん[水族館の水槽の前でさかなを鑑賞する子ども]

※アニマルウェルフェア:感受性を持つ生き物として動物に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされた、健康的な生活ができる飼育方法をめざす欧州発の考え方。

海の環境問題と私たちの暮らし

地球温暖化が進むと、海水温の上昇により、海の生き物にとって様々な問題が起こります。例えば、サンゴの中には褐虫藻という光合成をする単細胞藻類がいるんですが、海水温が上がることで死滅し、サンゴが白化(サンゴが死ぬこと)します。褐虫藻がいなくなることで、CO2を吸収して光合成する植物が減少し、より温暖化が加速してしまうんです。

 

その他にも、もともと暖かい海でしか獲れなかった魚が北の方でも獲れるようになることで、もといた海域では獲れなくなったり、水の中の酸素の量が減ることで、魚のサイズが小型化して漁獲量が減る可能性があります。


さかなのおにいさん かわちゃん[白化するサンゴ]

白化したサンゴ

 

近年、僕が活動している大阪、瀬戸内海では、タコの数が減っています。大阪湾に潜った時に衝撃的だったのは、空き缶の中に小さいタコが入り込んで巣にしていたこと。タコって好奇心旺盛で賢い上に、吸盤の力も強いので、ペットボトルやビンのキャップも開けられるんです。

 

タコが巣にしていた空き缶の中をよく見ると、白い房みたいなものがついていたんですよ。よく見たら卵でした。タコは海の中で藤の花のような卵を産むことから、タコの卵のことを海藤花(かいとうげ)と呼びます。メスが子育てをするんですが、マダコだったらだいたい半年くらい餌を食べずに卵を抱っこしながら、新鮮な水を送ったり、敵を追い払ったり、卵を守るんです。とても愛情深い母ダコですが、赤ちゃんが生まれたら力尽きて死んでしまうんです。人間が捨てた空き缶を母ダコが巣にしているのを見た時に、「海洋ごみがタコの暮らしや命にも大きく影響を与えてるな」って、僕が生で見て感じたことでもあるんです。


さかなのおにいさん かわちゃん[卵を守る母ダコ]

卵を守る母ダコ

 

\年間800万トン!?海洋プラスチックごみ問題について学ぼう/

海の豊かな未来のために

活動の中で大切にしていること

魚の魅力や海の環境のことを、できる限りオモロく、分かりやすく伝えることを大切にしています。そうすることで、子どもたちに環境意識を持って欲しいと思っています。さかなのおにいさんだからこそできることは、生き物や自然環境に対する興味関心の河口でいることなんです。河口はできるだけ広い方が、海から入るサケも遡上しやすいじゃないですか。できるだけバリアフリーで、楽しく入ってもらって、興味関心の川を上っていって、もっと詳しい人に出会って、いずれ源流にたどりつく。そういう人を増やすためにできるだけオモロくて楽しい入口、河口を作るのが、さかなのおにいさんにとって大事な役割だと思っています。


さかなのおにいさん かわちゃん[水族館のイベントにたつかわちゃん]

 

もう一つは、結論を与え過ぎないことです。琵琶湖では、外来魚のブラックバスが生物多様性という観点から大きな問題になっています。以前、滋賀の博物館で子どもたちの発表に携わらせていただいたのですが、今の子どもたちは、SDGsについて知らない子がいないくらい環境意識がとても高いです。すごいと感じたのと同時に、「外来種=駆除しなければ」という答えだけを聞いてそのままアウトプットしていることに少し不安を感じました。


さかなのおにいさん かわちゃん[外来種のブラックバス]

外来種のブラックバス

 

なぜ駆除しなければいけないのか、なぜ国内に持ち込まれたのか、子どもたちが考える余地や選択肢を残してあげることは、とても大事だと思います。

僕自身、外来種の管理や駆除は必要だと思っていますが、それでも一人の生き物好きとして命への葛藤があります。子どもたちにとって、ブラックバスの命を大切にしたいと思う気持ちも大事なことだし、一方で池にいる他の魚の命を大事に思う気持ちも大事にして、答えに迷える「余白」を大人が残してあげることが大事なんじゃないかなと思います。

海の環境を守るために取り組んでいること

僕は釣りが好きで釣り場によく行くんですが、僕がいる阪神エリアでは、空き缶や釣り具の仕掛けのゴミが問題になって、港での釣り場がどんどん閉鎖されていってるんです。釣り場へ行く時はゴミを拾うようにしているんですけど、やっぱりネガティブなことをやるってすごく労力がいるじゃないですか。もっとゴミ拾いをポジティブなものに変えたくて、ビンゴというエンターテインメント性を持たせた「釣りBINGO」というのを作りました。


さかなのおにいさん かわちゃん[釣りビンゴ]

かわちゃん考案の釣りBINGO

 

空き缶や、釣りの仕掛けのゴミを拾って、1列揃ったら釣り運が上がる。何の根拠もないんですが、こうすればゴミ拾いも楽しくできると思いませんか?画像の保存や印刷もフリーですので、自由に使って綺麗な海をみんなで一緒に守ってほしいと思います。

海で活動する原動力

魚が好き!ということがエネルギーの根源であることに間違い無いです。釣りをするのも、水族館に通うのも、食べるのも好きです。関西は春になったら、いかなごの釘煮を食べるんですけど、明石の街を歩くと、釘煮の甘辛い匂いがして春を感じるんです。自分がこの世にいなくなった後でも、子どもや孫の世代の子たちに、こういう体験をたくさんしてほしいと思うんです。だからこそ、さかなのおにいさんとして、次の世代の子どもたちにバトンを繋いでいけたらと思っています。


さかなのおにいさん かわちゃん[未来の子どもたちに繋げていきたい海の豊かさ]

読者の方へのメッセージ

やさしい想像力を育む

子どもたちにとって、これから色々な体験をする中で、気持ち悪いとか怖いというネガティブな感想もあると思うんですが、そこも大事にしてほしいなって思います。たくさんのことを体験して、知ることで、子どもの世界の端っこがどんどん広がると思います。そのことがきっと海の環境を思いやれる、「やさしい想像力」につながると思うんです。

 

子どもたちが好きと思えることもとことんやって、褒めてあげて、成功体験を積ませてあげることで、好きがどんどん広がっていき、自分の好きなことが誰かにとって幸せで、社会的な価値につなげられると思うので、お子さんの感じたことを信じてあげて欲しいなって思います。


さかなのおにいさん かわちゃん

オンラインで取材にご対応いただいたさかなのおにいさん かわちゃん

 


編集後記

伝えるという経験を背景に、さかなのおにいさんとして、さかなの魅力や海の大切さを発信しているかわちゃん。インタビュー中、私たちの拙い進行に対しても分りやすく、丁寧にお話いただきました。ありがたいことに、私たちインタビュアーの好きなことや性格から、私たちに似た魚と、そのオモロい生態まで教えていただきました。教えていただいた魚をきっかけに、海をもっと身近に感じられるようになりましたし、私たちと同じように感じる人が増えることで海の豊かな未来につながって欲しいなと思います。

 


 

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さかなのおにいさん かわちゃん

Profile

さかなのおにいさん かわちゃん

1990年生まれ。さかなたちの“オモロい”生態や海の大切さをイラストや歌で伝えることで、子どもの好奇心を育てる活動をしている。テレビ東京「シナぷしゅ」で作詞作曲うた・イラストを担当。著書に「ツッコミたくなるおさかな図鑑(ワニブックス)」や「全国クセすご水族館図鑑(中央公論新社)」など。

 

https://sakana-bro.com

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