環境問題のひとつである砂漠化は、日本に住む人にとって身近ではないと感じる人も多いのではないでしょうか。しかし、砂漠化は世界のさまざまな国で起こっている問題であり、日本人でも無関係とは言えないのです。また、環境問題に対して意識を変えることで、日本以外の国で起きている砂漠化を少しだけ食い止めることができるかもしれません。
この記事では、砂漠化の原因や私たちができることを解説します。自分ができることを考えて、地球環境を良くするきっかけにしましょう。
目次
環境問題の1つ「砂漠化」って?
そもそも砂漠化がどのような環境問題なのか、漠然としたイメージしか持っていない人も多いかと思います。砂漠化は今までは砂漠ではなかった土地が乾燥してしまい、砂の大地になる環境問題です。砂漠化した土地は今まで植物が生え緑が豊かだったとしても、気候変動や人間活動の影響で乾燥してしまい、不毛の土地になってしまうのです。
砂漠化と似た言葉として砂漠がありますが、こちらは土地の特性上植物が生えず、砂や岩が多く、人が住むのが難しい土地をさします。気候変動や人間活動に関係なく、もともとの土地の状態が砂漠であったということです。つまり、砂漠化が起きたから砂漠ができているのではなく、土地が劣化していく「現象」を「砂漠化」といい、降雨量が極端に少なく、砂や岩が多い「土地の特徴の名称」が「砂漠」なのです。
砂漠化が起きるのはなぜ?
砂漠化が起きるのは、主に2つの原因「人為的要因」と「気候的要因」があります。まずは大まかな原因を理解して、砂漠化への知識を深めましょう。
人為的要因
人為的要因で起きる砂漠化は、人間が過度な耕作や放牧、伐採をおこなった影響で、土地が変化してしまった状態です。たとえば、人間が生きるために家畜を放牧しながら育てている状態で、家畜の餌としてその土地の植物が食べられてしまうと、植物が枯渇してしまい砂漠化につながります。育てている家畜の数がその土地にある植物の量よりも多くなれば、その分餌が必要になり、植物が減ってしまうのです。
また、人間が食べる野菜を収穫するために農業用の畑を過度に増やしている場合に起きる砂漠化も、人為的要因に含まれます。農業が急増している国だと、畑の作りすぎで砂漠化が起きている場合もあります。
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気候的要因
気候変動や干ばつなど人間が直接的に関与しない原因で砂漠化が起きている場合は、気候的要因に含まれます。砂漠化以外の環境問題で地球温暖化があげられますが、過度に気温が高くなることで土地の水分がなくなり、砂漠化してひび割れを起こしてしまうのです。
地球温暖化の原因は、森林の減少や二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量が多いこと、海の温度が上がっている点が関係していると言われています。砂漠化の原因は、ほかの環境問題が関わっている可能性もあるのです。
\砂漠化の原因の1つ「地球温暖化」について詳しく!/
原因をもっと詳しく深堀ろう
砂漠化が起きる具体的な原因の詳細も理解しておくと、さらに環境問題への知識を深められます。ここでは、砂漠化が起きる原因の詳細を3つ解説します。
風食
風食とは、風が吹いて土地の砂や土が飛ばされることで、生えている植物の根が浅くなってしまう状況を指します。生えている植物の根が浅くなれば栄養が取れず、枯れてしまう可能性が高まるのです。干ばつに見舞われる地域では、風の強い季節に土が飛ばされ土壌の表層が失われてしまう恐れがあります。そうなると畑を作っていても植物が枯れてしまい、人間の生活にも影響が出てきます。
水食
土地の土がなくなる理由には、風食以外にも水食があります。水食は雨や水の流れによって地表の土が流されてしまい、土の厚さが薄くなってしまうのです。土の厚さが薄くなると、保水力が弱まるため、砂漠化の影響で起きるひび割れにつながります。水食にあった土地は、ひどいと岩肌が剥き出しになる場合もあります。岩肌や石には大きな保水力がないため、雨が降っても植物の成長に必要な水分が足りないのです。また、水食にあった土地は地面に根を張った植物も生えていないことが多いため、雨が少し降るだけでも土砂が流れるようになってしまいます。
塩害
塩害とは地面に塩が溜まってしまい、植物に害を与えている状態です。乾燥している土地では自然に降る雨だけで作物を育てるのは難しいため、用水路を利用して近くの川や湖から水を畑に引き込んでいます。しかし、作物が吸った水分以外にも、土から蒸発している水分もあります。川や湖の水は塩分が含まれており、強い太陽の光で蒸発すると塩だけを残してしまうのです。その塩が生えている植物に影響を与えてしまい、砂漠化を引き起こします。
砂漠化が及ぼす影響
普段は身近な存在ではない砂漠化を放置しておくと、人間活動にも大きな影響を出す可能性があります。
ここでは、砂漠化問題が及ぼす影響を5つ解説します。
生息環境
砂漠化によって土地の水分がなくなってしまうと、植物や動物が住めなくなり生息する環境が悪化してしまいます。住む場所がなくなると、生きていくことができなくなるため、生物多様性の損失にもつながるのです。さらに、砂漠化した土地には砂嵐が発生する場合もあります。土壌劣化や干ばつ、気候変動が起きると砂嵐が起きやすいとされています。砂嵐が起こる土地はさまざまな環境汚染があるため、人間も住みにくい土地となってしまいます。
資源
砂漠化が起きると、土地の水分がなくなることによる水不足や、住みにくい土地になることからの生物の減少につながります。乾燥地に住む人々は食料や飼料などを生態系に依存しているため、生態系が損なわれることにより農業生産性の低下が起こります。農業生産性の低下が起こることに伴い、森林や水など自然資源の過剰利用を行わざるを得ず、さらに土地を劣化させるという悪循環が起こっています。
また、土壌の劣化は土壌の保水能力を低下させ、土壌の中に浸透する水量を減少させます。土壌に浸透する水量が減少することは、井戸水などの水資源の減少にもつながります。乾燥地のただでさえ乏しい水資源が減少することで、住民の健康にも影響が出てしまいます。
保健衛生
砂漠化が起き、畑の量が減ってしまえば、農産物の生産量も少なくなってしまいます。自給自足目的で農作物の生産をおこなっている人はもちろん、農業を仕事としている人にも大きな打撃といえます。収穫量が減ってしまえば、食べられるものが少なくなり、栄養失調や飢餓を引き起こす恐れもあります。さらに、生きるために必須な飲み水も手に入らなくなります。衛生環境の悪い土地にある水を飲むと、感染症や下痢などの病気を引き起こしてしまい、治療できなければ命を失うかもしれません。すなわち砂漠化は、国の人口減少にもつながるのです。
安全保障
各地域で砂漠化が起きてしまえば、水やエネルギーなどの資源を求めて対立が起きる可能性があります。食べ物を育てるための土地はどの国でも必要なため、土地が枯渇してしまうと取り合いになる恐れがあるのです。争いが起きれば犯罪に荷担する人が増え、戦う意志がない人も巻き込まれてしまうかもしれません。住みやすい土地を求めてもともと住んでいる人を追い出したり、食べ物の奪い合いになったりする可能性もあります。
社会経済
環境汚染のイメージがある砂漠化ですが、社会経済にも大きな影響を与えます。エネルギー資源が少ない国は貧困化が起き、人口の移動や社会経済回復力が低下してしまうのです。貧困から抜け出すためには、エネルギーがある国への移動が必要になります。その結果、都市部に仕事を求めて人口が移動してしまい、都市部のパニックにつながるかもしれません。他国で食べ物や水などのエネルギーがない状況は、隣接する豊かな国にとって影響がない話ではないのです。
砂漠化が深刻な国の現状
砂漠化が大きな環境問題であるとわかっても、実際世界のどの国で問題が起きているのかわからず、イメージができない人もいるのではないでしょうか。
ここでは、砂漠化が深刻な国の状態を解説します。日本では今のところ砂漠化が起きていないからと言って、他人事とは思わないようにしましょう。
エチオピア
エチオピアは、1974年に王政から社会主義国家に変わりました。その時に多くの土地が伐採され、農地に転換されたのです。結果的に、土地の森林が少なくなり砂漠化につながっています。
さらに、エチオピアでは降雨の影響や人口増加が関係し、食べ物を増やすために農地の拡大がおこなわれています。家畜数も増加しているため、森林の減少による砂漠化を食い止めることが難しくなっているのです。
インド
インドは国土の3分の1が砂漠気候に属しているため、多くの土地が劣化・荒廃した土地となっています。もともとサバンナやステップの乾燥地帯に属しているうえ、森林伐採や農耕地の不適切な運用が砂漠化の原因です。
モロッコ
モロッコは、1970年代に大規模なオリーブ畑が開発されたことが、砂漠化の原因となっています。オリーブ畑を作るときに、もともとあった森林が伐採されました。
さらに、土地を耕作地へ転換したり森林火災が起きたりしたことにより、砂漠化は悪化しました。また、地域によっては水食による被害も起きています。
中国
中国では、北京市や河北省の土壌が風によって分散・運搬されてしまうことで砂漠化が起きています。さらに、森林伐採や過放牧による森林の減少が起き、砂漠化の状況が悪化しているのです。
中国政府は過放牧や過伐採を禁止し、森林を増やすために植林をおこないました。しかし、砂漠化している土地の広さや植林による水不足など、新たな問題も出現しています。
ブルキナファソ
ブルキナファソは、2002年に発生した内戦により、コートジボワールをはじめとした外部からの人口流入が起こりました。その結果人口が増加したため、綿花や食料生産のために農地の拡大が必要になりました。農耕地を増やす目的として、森林伐採をおこなってしまったのです。
さらに、気候変動の影響で年間降水量が減少し干ばつが起こっています。その中で近年に集中豪雨が発生し水食の影響を受けてしまい、土地の劣化や砂漠化が悪化しています。
日本が行う取り組み
砂漠化は日本では起きておらず、海外で起きている深刻な環境問題です。しかし、日本は世界の砂漠化に対して率先的にさまざまな取り組みをおこなっています。
ここでは、世界の砂漠化に対して日本がおこなう取り組みを解説します。
研究
日本政府は環境省主導のもと、砂漠化に対して、研究や調査をおこなっています。土地の条件や利用方法により砂漠化が起きるメカニズムを研究し、砂漠化が起きるプロセスを説明するモデルを構築しました。
さらに、過去の砂漠化の説明や砂漠化防止に効果的な土地の利用方法や生態系を管理するための提案をおこなっており、日本が発表した砂漠化のメカニズムや技術は、世界にも大きな貢献を果たしました。
砂漠化対処条約への参加
日本は、国際連合が結んでいる、砂漠化の進行を止めるための「砂漠化対処条約」へ参加しています。この条約は、アフリカの国をはじめとする砂漠化に直面している国の状況を、国際社会で解決に向けて協力するというものです。
この条約では、砂漠化を解決する方法として貧困層の減少や持続可能なエネルギーの管理などが必要と考えられています。そのために、森林保全や農業開発などの技術協力がおこなわれています。
企業による取り組み
日本の大企業には、砂漠化対策に参加している企業もあります。ある企業は中国の河北省豊寧県で進行する砂漠化を21世紀中国首都圏環境緑化モデル拠点と位置付け、植林活動を推進しました。
さらに、乳牛モデル農家を導入し、メタンガス施設の建設をおこない、間接的緑化にも貢献しています。
私たち個人が砂漠化に対してできること
砂漠化へ興味を持っても、実際に自分は何ができるのか悩む人もいるかと思います。日本では砂漠化が身近ではないため、影響を実感しにくいこともあり、実際に行動に移している人は多くないかもしれません。
ここでは、砂漠化に対して個人ができることを3つ解説します。今日から環境問題解決のために少しずつ行動してみましょう。
砂漠化問題へ興味を持つ
そもそも、日本人の中には自国が砂漠化しないからといって、あまり改善への意識を持たない人も多いです。環境問題は短い時間で日々の生活に大きく影響を出すわけではないため、ついつい忘れがちになってしまうものです。砂漠化を改善したいと考えたなら、初めに砂漠化問題への情報を集め、知識を身に付けましょう。一人ひとりの意識が変わるだけでも、砂漠化の原因となる地球温暖化の進行を食い止める手立てになるのです。
難しい取り組みをしなければいけないわけではありません。まずは「なぜ砂漠化が起きているか」から理解していきましょう。
寄付をおこなう
日本では国内での砂漠化は起きていないものの、世界に向けて砂漠化防止への取り組みをおこなっています。自分自身が大きな行動を起こさなくても、寄付という形で砂漠化防止の取り組みを支援することが可能です。国際協力機構では土地の劣化抑制プロジェクト、国際農林水産業研究センターでは農作業を持続して行える技術の普及などの取り組みをおこなっています。これらに寄付をおこなうと、海外の砂漠化問題にも間接的に力添えできます。
食生活を見直す
今日からできる取り組みとして、自分の食生活を見直す方法もあります。バランスの良い食事は大切ですが、食卓に上がる肉類を減らすだけでも、家畜を増やす必要がなくなり砂漠化を食い止める手助けとなる可能性があります。家畜動物は温室効果ガスの排出や間接的に土壌の汚染も引き起こしてしまうため、多ければ多いほど良いわけではありません。
普段食べている食事を見直して、必要以上に肉類や魚類が多いのであれば、控えてみる選択肢も考えてみましょう。
\フードロスにも注目してみよう!/
まとめ
この記事では、砂漠化の原因や私たちができることを解説しました。砂漠化は世界では大きな環境問題のひとつですが、日本では起きていないため身近な存在ではありません。しかし、世界で起きる砂漠化は決して日本に関係ない話ではないのです。
また、砂漠化が起きていない日本にいても、一人ひとりが寄付や食生活の見直しをおこなえば、世界の砂漠化に少しずつ良い影響を与えられる可能性があります。自分では何もできないとは考えず、何ができるのか考え、行動してみましょう。
豆知識メモ|日本で有名な鳥取砂丘は砂漠じゃないの?
日本にある砂漠といえば、鳥取砂丘が思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。しかし、厳密にいえば鳥取砂丘は砂漠ではないのです。
ここでは鳥取砂丘や日本で唯一の砂漠について簡単にご紹介します。
鳥取砂丘
結論から伝えると、鳥取砂丘は砂漠ではありません。一般的に砂漠とは、「見渡す限り砂が広がる景色」を指す人が多いでしょう。しかし、砂丘はほかの土地から砂が集められて作られたにすぎず、元から不毛な土地ではないのです。
鳥取砂丘の砂は、その多くが内陸部の中国山地や花崗岩が砂化したものです。風によって海に流れた砂が波に打ち寄せられ、現在の砂丘を作り出しています。
日本唯一の砂漠は東京に!?
鳥取砂丘が砂漠ではないというと、日本に砂漠はないのではと考える人もいるかもしれません。ですが実は日本にはひとつだけ砂漠があり、それは東京都の伊豆大島に存在します。
伊豆大島の砂漠は、火山の噴火による火山灰が積み重なった砂が特徴で、一面が黒い色をしています。鳥取砂丘とはまったく違う幻想的な印象のため、本物の砂漠を見てみたいという人は、ぜひ訪れてみましょう。
【参考】
「日本で唯一の砂漠」は東京にあった!伊豆大島の「裏砂漠」って知ってる?