日本の国土の約3分の2は豊かな森林に覆われています。実はそのうちの約4割が、人の手によって植えられ育てられた「人工林」であることをご存知でしょうか。
戦後の政策によって造られた日本の人工林の多くは現在、木材として活用できる適齢期を迎えています。しかし、林業の担い手不足などにより手入れされずに放置される森が増加しており、土砂崩れなどの災害リスクや環境悪化が深刻な問題となっています。
この記事では、人工林の成り立ちや天然林との違いをはじめ、私たちの生活を支える多面的な役割、森を維持するための管理プロセス、そして現在抱えている課題と解決に向けた取り組みまでを詳しく解説します。
人工林とは
人工林はいつから日本にある?
日本の森林面積の約4割を占める人工林ですが、その大部分は1950年代から70年代にかけての国策によって形成されました。

当時の日本は戦時中・戦後の復興期から高度経済成長期にあたり、住宅建設ラッシュなどによる深刻な木材不足に直面していました。この急増する需要に応えるため、成長が早く建材として扱いやすいスギやヒノキなどの針葉樹を大量に植える政策が国を挙げて推進されたのです。
かつて薪や炭の原料として利用されていた広葉樹の天然林を伐採し、人工林へと転換する動きが全国各地で急速に進められました。
しかし、1964年に木材の輸入が全面自由化されると、日本の林業を取り巻く状況は一変します。安価で大量に供給される外国産木材が市場を席巻したことで、国内の木材価格は下落し、林業は次第に衰退していきました。
その結果、採算が合わなくなった多くの人工林が、間伐などの適切な手入れをされないまま放置されるようになってしまったのです。
当時植林された木々の多くは、現在樹齢50年を超え「本格的な利用期」を迎えています。この歴史的背景を理解することは、現代の森林が抱える課題や、今後の環境保全・木材の有効活用を考える上で非常に重要なポイントとなります。
人工林と天然林の違い
人工林と天然林の最大の違いは、人の手によって作られたか、自然の力で形成されたかという成り立ちにあります。

人工林は、主に木材生産を目的として人間が苗木を植えて育てた森です。真っ直ぐ成長して建材に使いやすいスギやヒノキなどの針葉樹が、単一の品種で植えられているのが特徴です。計画的に育てて伐採し、資源として活用することで、私たちの暮らしを支える役割を担っています。
一方の天然林は、種子が風や鳥などに運ばれて自然発芽した森であり、ブナやナラなどの広葉樹を中心に多様な樹木が入り交じって成長します。多様な生きものが暮らす環境を育み、水や土壌を守るなど、自然のバランスを保つ重要な役割を持っています。
このように、人工林と天然林はそれぞれ目的や役割が異なります。どちらかが良い・悪いというものではなく、それぞれの特性を活かしながら、バランスよく守り活かしていくことが大切です。
人工林と天然林のメリット・デメリット
メリットとデメリット【人工林】
人工林の最大のメリットは、木材を効率的かつ計画的に生産できる点にあります。スギやヒノキなど、加工しやすい特定の樹種をまとめて植えるため、品質の揃った木材を安定して確保することが可能です。
これにより住居や家具、紙製品などの供給が支えられているほか、間伐材を活用したアップサイクル製品を生み出す資源としても重要な役割を担っています。

一方でデメリットは、維持管理に多大な手間とコストがかかることです。苗木を植えてから木材として利用できるまでには数十年を要し、その間、下草刈りや間伐といった人の手による継続的な手入れが欠かせません。
この手入れを怠ると、森の中に日光が届かなくなって木々の根が弱り、土砂災害の危険性が高まるほか、生物多様性も低下しやすくなります。
メリットとデメリット【天然林】
天然林のメリットは、その豊かな生物多様性と、自然の力による環境保全機能の高さです。多様な種類の樹木が自生しているため、多くの野生動物や昆虫の住処となり、自立した強固な生態系が築かれています。
また、落ち葉がフカフカの土壌を作り出すことで、雨水を蓄えて川へ少しずつ流す水源涵養機能や、土砂流出を防ぐ防災機能にも優れています。

対してデメリットは、工業的な木材生産には不向きである点が挙げられます。樹種や成長速度がバラバラで、幹が曲がっている木も多いため、建材として規格の揃った木材を大量に収穫することには適していません。
そのため、天然林から得られる木材は、それぞれの木の個性を活かした家具や工芸品など、限定的な用途になりやすいという側面があります。
人工林の働きとは?
①木材・林産物を持続的に供給
人工林の最も基本的な役割は、私たちの生活に欠かせない木材を安定して供給することです。

スギやヒノキなど、加工しやすく需要の高い樹種を計画的に植えて育てることで、住宅の建材や家具などの原料を持続的に生み出しています。自然のペースに依存する天然林とは異なり、人間の管理のもとで必要な量の資源を効率的に生産できるのが大きな特徴です。
②地球温暖化の対策
樹木は成長する過程で、光合成によって地球温暖化の原因となる大気中のCO2を吸収し、自らの幹や枝に炭素として蓄えます。

木材として加工されて家や家具になった後も、廃棄され燃やされない限り炭素は固定され続けます。成長が早くCO2吸収量の多い若い木を育て、成長した木を伐採して使い、また新しい苗木を植えるという人工林のサイクルを回すことは、脱炭素社会の実現に直結します。
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③洪水や渇水を防ぎ良質な水を作る
手入れの行き届いた人工林の土壌には、落ち葉などが分解されてできた隙間が無数にあり、ふかふかのスポンジのような構造になっています。この土壌が降った雨をたっぷりと蓄え、ゆっくりと川へ流すことで、大雨の際の洪水を防ぎ、日照り続きの際には水枯れを防ぎます。
また、雨水が土壌を通る過程で不純物がろ過されるため、ミネラルを含んだ良質な水が作られます。これは「緑のダム」とも呼ばれる働きです。
④山崩れや土砂の流出を防止
樹木の根が地中に深く広く張ることで、土砂や岩石を網の目のようにしっかりと抱え込み、地震や大雨による山崩れを防ぐ役割を果たします。また、葉や枝、地面に積もった落ち葉がクッションとなり、激しい雨粒が直接地面を叩いて表土が流れ出すのを防いでいます。
ただし、この防災機能を発揮するためには、間伐を行って森の中に日光を届け、根や下草を健全に育てておくことが不可欠です。
⑤資源の循環利用を創出
石油などの化石燃料とは異なり、人工林の木は伐採しても再び植えることで半永久的に利用できる「再生可能資源」です。建材として使えない端材や、森を健全に保つために間引かれた間伐材も決して無駄にはなりません。
紙製品や梱包資材の原料、バイオマス燃料、さらには日用品へとアップサイクルするための素材として幅広く活用されています。
人工林の木を隅々まで使い切ることは、廃棄物を減らし、循環型社会を構築する上で欠かせない取り組みです。
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人工林の管理方法
植樹・造林(苗木を植える)

人工林のサイクルは、木を植える準備から始まります。まずは伐採跡地に残った枝や葉、雑草などを整理する「地ごしらえ」を行い、苗木が育ちやすい環境を整えます。その後、スギやヒノキなどの苗木を等間隔で手作業で植えていきます。
植樹後から数年間は、苗木が周囲の雑草に日当たりや養分を奪われないよう、夏場に草を刈り取る「下刈り」という作業が毎年必要です。
また、近年はシカやウサギなどに若い苗木を食べられてしまう獣害が深刻なため、防護ネットを設置するなどの対策も合わせて行われます。この初期段階の手厚いケアが、森の土台を作ります。
間伐(成長に合わせて間引く)
植樹から十数年が経過し木々が成長してくると、枝葉が重なり合って森の中が過密状態になります。
そのまま放置すると日光が遮られ、木が細くもやしのように育ってしまったり、下草が生えずに土砂崩れが起きやすくなったりします。
これを防ぐために行うのが、一部の木を計画的に伐採して間引く「間伐」です。

間伐を行うことで森の中に十分な日光が差し込むようになり、残された木が太く真っ直ぐに成長し、根もしっかりと張るようになります。健全な森の維持と、土砂災害の防止において、この間伐は最も重要なプロセスのひとつです。
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主伐(収穫と更新)
植樹からおよそ50年以上が経過し、木が十分に成長して利用可能な時期(伐期)を迎えると、木材として収穫するための伐採を行います。これを「主伐」と呼びます。
主伐は、人工林における一つのサイクルのゴールであると同時に、新しい森づくりのスタート地点でもあります。伐採して木材として利用した後は、必ずその跡地に再び苗木を植える(再造林・更新)ことが不可欠です。「植える→育てる(間伐)→収穫する(主伐)→また植える」というサイクルを回し続けることこそが、持続可能な林業と環境保全の両立に繋がります。
人工林の割合
主伐期を迎える日本の人工林
日本の国土の約3分の2は豊かな森林に覆われていますが、そのうちの約4割を、人の手で植えられた人工林が占めています。
これらの人工林の大部分は、戦後の復興期から高度経済成長期にかけての木材不足を解消するために、国策として集中的に造林されたものです。植樹から半世紀以上が経過した現在、日本の人工林の多くは樹齢50年を超え、木材として収穫するのに適した「主伐期(しゅばつき)」を迎えています。
人工林はスギとヒノキの割合が多い
人工林を構成する樹種を見ると、スギが4割、次いでヒノキが2割を占めており、これら針葉樹が全体の中心となっています。広葉樹ではなく針葉樹が多く選ばれた理由は、幹が真っ直ぐに成長するため製材しやすく、建築用の柱や板として加工するのに非常に適しているためです。
特にスギは成長が早く幅広い用途に使え、ヒノキは耐久性が高く水回りや高級建材として需要があったことから、日本の気候風土に合わせて大量に植林されました。また、単一樹種が広がることで森林の多様性が低下しやすい点も指摘されており、近年では広葉樹との混交林への転換など、多様性を意識した森林づくりも注目されています。
一方で、伐採や再植林が十分に進んでいない地域も多く、資源として活かしきれていないという課題も抱えています。
世界は90%以上は天然林が占める
世界の森林事情を見ると、全体の約93%を天然林が占めており、人工林はわずか7%に過ぎません。天然林とは、人の手をほとんど加えず自然の力で形成された森林のことで、多様な動植物が生息する生態系の基盤となっています。
これに対して、日本の人工林率の高さは世界的に見ても非常に特徴的であり、人の手によって森林が維持・管理されてきた歴史を反映しています。人工林は適切に手入れを行うことで資源として活用できる一方、管理が行き届かないと環境への悪影響も生じるため、日本では「森林をどう使い、どう守るか」が重要な課題となっています。
人工林の抱える問題と課題
伐採せず放置された林の増加による災害リスク
木材価格の低迷などを背景に、間伐などの適切な手入れが行き届かず、そのまま放置される人工林が全国各地で増加しています。

スギやヒノキが密集した森で間伐が行われないと、枝葉が重なり合って日光が地面に届かなくなります。その結果、下草が生えずに土壌がむき出しになる「緑の砂漠」と呼ばれる状態に陥ります。
木々の根が細く弱まり、土を掴んで雨水を蓄える力が失われるため、近年頻発している台風や局地的な大雨の際に、大規模な土砂崩れなどを引き起こす災害リスクが劇的に高まってしまうのです。
林業従事者の後継者不足
日本の山林は急斜面が多く、重い機材を扱って木を伐採する林業は、他産業と比べても過酷で危険を伴う労働環境にあります。そのため、長年森を守ってきた従事者の高齢化が著しく進む一方で、技術を受け継ぐ若手後継者の不足が極めて深刻な問題となっています。
森を適切に管理するための後継者が減少すれば、前述した放置林の増加にさらに拍車がかかり、これまで育ててきた豊かな森林環境を維持すること自体が困難な状況に直面しています。
国産材価格の低迷により間伐しても赤字
安価な輸入材の普及などで国産材の価格が低迷し、木を伐採して搬出しても採算が合わず、間伐を行えば行うほど赤字になってしまうという構造的な課題があります。特に海外から輸入される木材は大量生産・大量輸送によってコストが抑えられており、国内の林業は価格競争で不利な立場に置かれています。
さらに、日本の森林は山間部に多く、木材の伐採や運搬に手間とコストがかかることも収益性を圧迫する要因となっています。
そのため、本来は森林の健全化のために必要な間伐が経済的理由で敬遠され、結果として手入れ不足の森林が増えてしまうという悪循環が生まれています。この問題は林業単体にとどまらず、森林環境全体に影響を及ぼす深刻な課題といえます。
人工林の課題に対する取り組み
森林管理のスマート化
日本の林業は急峻な地形での作業が多く、高齢化による労働力不足や安全性の確保が大きな課題です。そこで、ドローンによる測量やICT機器を活用した「スマート林業」の導入が進められています。

上空からレーザーで森の状況を短時間で正確に把握したり、GPSを使って効率的な伐採ルートを策定したりすることで、作業の効率化や労働負担の軽減、安全性の向上が図られています。
森林の循環利用促進
放置された人工林を健康な状態に戻すためには、「伐って、使って、植える」というサイクルを回すことが不可欠です。そのため、公共建築物や中高層ビルへの木材利用のほか、私たちの身近な生活の中での活用が推進されています。特に、森を健全に保つために間引かれた間伐材を原料とした紙製品や梱包資材を積極的に選ぶことは、林業に資金を還元し、次の苗木を植えるための直接的な支援に繋がります。
木育

森林保全の重要性を社会全体で共有するため、子どもたちが木とふれあい、森や環境について学ぶ「木育」が各地で行われています。地元の木材を使ったおもちゃで遊んだり、森での体験学習を通じて五感で木に親しむことで、自然への愛着を育む狙いがあります。幼い頃から木材への親しみを深めることは、将来的に国産材や環境配慮型の製品を選ぶといった、森林保全への理解と行動を促すきっかけとなります。
花粉の少ない森林へ
社会問題化している花粉症への対策として、国や自治体を挙げて花粉の発生源となるスギの伐採と植え替えが推進されています。具体的には、利用期を迎えた従来のスギを伐採して木材として活用し、その跡地に花粉の発生量が少ない「少花粉スギ」や全く花粉を出さない「無花粉スギ」の苗木を植える取り組みです。日本の森を健康に保ちながら、長期的な視野でアレルギーの原因を減らしていく環境改善が進められています。
\ワセリンで花粉症対策!/
まとめ
日本の森林の多くを占める人工林は、現在利用期を迎えている一方で、放置による災害リスクや担い手不足といった深刻な課題を抱えています。しかし、ICTを活用したスマート林業の推進や、花粉の少ない森づくりなど、課題解決に向けた取り組みも着実に動き出しています。
私たち「カンキョーダイナリー」を運営する大昭和紙工産業も、日々さまざまな紙製品を扱う企業として、森林資源の恩恵と課題を肌で感じています。だからこそ、森を健康に保つために不可欠な間伐材を紙製品へ有効活用したり、環境に配慮したアップサイクル製品を生み出したりすることで、日本の森を循環させるサイクルに直接貢献していきたいと考えています。
人工林は、適切に手入れを行い循環させることで、環境保全や持続可能な社会の実現に大きく貢献します。木材を使った建築物はもちろん、間伐材を活用した紙袋や梱包資材などを、私たちが日々の生活の中で意識して選ぶことも、日本の豊かな森を未来へ繋ぐための大切な一歩となるのです。
【参考】
林野庁:令和5年度 森林・林業白書(森林資源の利用と造成の歴史)
林野庁 九州森林管理局:森林はどうやって出来ていくのですか
林野庁:森林の有する多面的機能
林野庁:令和6年度 森林・林業白書(第1部 第1章 第1節 森林の適正な整備・保全の推進)
林野庁 近畿中国森林管理局:健全な森林づくり
林野庁:間伐とは?
林野庁:スギ・ヒノキ花粉に関する対策