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なぜ、クジラの胃から海洋プラスチックごみ!?|「海獣学者、クジラを解剖する。」

なぜ、クジラの胃から海洋プラスチックごみ!?|「海獣学者、クジラを解剖する。」

ダイナリー図書館では、これからの地球のために、自分ごととして環境問題に取り組むキッカケとなれるよう、カンキョーダイナリー(環境>)おすすめの本や映画などをご紹介していきます。

クジラの赤ちゃんの胃からも見つかったビニール片
海の動物と海洋プラスチックごみ問題の関係性

原因は、人間?クジラが海岸に打ち上げられるワケ

クジラなどの海洋生物が、浅瀬で座礁したり、海岸に打ち上げられている現象を「ストランディング(stranding=漂着、座礁)」と呼びます。このストランディング個体の解剖調査や博物館の標本化作業をされている国立科学博物館の田島木綿子さんが、七転八倒の毎日とともに海の哺乳類の生態を紹介していく本書。

 

日本は世界に類を見ない“クジラ王国”と言われています。その一方で、そのクジラやイルカなどの海の哺乳類が、自ら海岸に打ち上がり、死んでしまう現象が世界で起こっていることを知る日本人はまだ多くはありません。

 

実際に、日本では年間300件にも及ぶ海の哺乳類のストランディング報告があります。田島さんは、ストランディング連絡が入ると海岸へ出動し、どうしてクジラがストランディングしたか、死因は何かを突き止めていきます。いったい、どうしてクジラは打ち上げられてしまうのか?また、近年問題視されている海洋汚染問題がどのように関わっているかに触れることができる一冊です。

クジラを守る方法は、脱プラスチック

この本では田島さんの奮闘する姿はもちろん、ストランディングしたクジラやイルカを通して、私たちに多くのことを気づかせてくれます。実際に田島さんが2018年8月に解剖したシロナガスクジラの赤ちゃんは、まだ乳飲み子であるにもかかわらず、胃の中から直径7cmほどのビニール片が見つかったと紹介されています。

 

海洋プラスチックなどの海洋汚染物質のうち、約7割が河川経由のものであるという報告もあります。私たちが汎用しているコンタクトレンズや歯磨き粉、ボディスクラブ、プラスチック容器の破片が下水に流れ、そのまま海へ流れてしまうと海洋生物の生死に関わる一因となります。

 

みなさんは、蛇口をひねったその先に海が繋がっていることを感じながら、生活をしていますか?住むところは違えど、私たち人間と同じ哺乳類であるクジラやイルカ。海の哺乳類たちを守るために私たちができることはなんでしょうか?

 

「かながわプラごみゼロ宣言」


2018年8月5日、神奈川県鎌倉市由比ヶ浜にストランディングしたシロナガスクジラの赤ちゃんの胃のなかには直径7cmほどのビニール片がありました。死因としては、親とはぐれたことで死亡してしまった可能性が高いと推測されていますが、乳飲み子のクジラのおなかから、人間社会由来の異物が見つかったことは研究者のなかでも衝撃だったそうです。


「かながわプラごみゼロ宣言」は、この事実を知った知事が、環境問題の解決に向け発令した宣言です。

 


 

プラスチックの何が悪いの?

環境に悪影響のプラスチック

 

近年、海洋汚染がストランディングに関係しているのではないかという説が注目されています。いったい、なぜ海に海洋プラスチックごみがあることが問題視されているのでしょうか。

マイクロプラスチック

海洋に流入するプラスチックの量は、毎年800万トン以上に上ると推定されており、2050年には海で暮らす魚の数より多くなると言われています。このプラスチックごみは、日光や波風に晒されることで劣化し、直径5ミリメートル以下まで細かくバラバラになります。これをマイクロプラスチックと呼びます。マイクロプラスチックは、これ以降なくなることはなく、海に漂い続け、その数は約5兆個とも言われています。

 

動物の誤食

マイクロプラスチックをプランクトンと間違えて食べてしまう魚類や貝類は、消化器官や内臓が傷つくことで、それ自体が死因になることもあります。また海鳥やウミガメは、大型プラスチックを飲み込んだことで胃潰瘍になるなどの障害が報告されています。

環境汚染物質「POPs」

海洋プラスチックは、それ自体が海洋生物の内臓や組織にダメージを与えるだけでなく、残留性有機汚染物質「POPs(Persistent Organic Pollutants)」が吸着し、濃縮することがわかっています。POPsは、難分解性、高蓄積性、長距離移動性、有害性(人の健康・生態系)を持つ物質のことを指します。POPsによる地球規模の汚染が懸念されており、2004年5月には「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)が発効されています。

 

一般的に、POPsは食物連鎖を介して、小さな生物から大きな生物へと移行し、そのたびにどんどん濃縮されていくとされています。そのため、私たち人間にも影響が出ると考えられています。

 

POPsが体内に高濃度に蓄積されると、免疫力が低下することがわかっており、その結果、感染症にかかりやすくなったり、発がんや内分泌機能の異常(甲状腺、副腎、下垂体から成長ホルモンやホルモンを正常に分泌できなくなる)などにも繋がっている可能性が示されています。

海洋ごみを削減するために私たちができる3つの行動

キレイなビーチ

①脱プラスチックに取り組む

原因となっているプラスチックの使用量を減らしたり、別素材のものに置き換える「脱プラスチック」。エコバッグを持ち歩いてレジ袋を貰わないようにするアクションは、レジ袋有料化にともなって取り組んでいる方も多いのではないでしょうか。

 

最近では、商品パッケージの紙化に取り組む企業が増えています。また、量り売りでパッケージフリーのお買い物をするなどといった取り組みも注目されています。

 

②情報収集する

メディアでも取り上げられることが増えた環境問題ですが、意識的に情報を収集して、現状を知ることも大切です。ニュース番組や新聞記事で最新情報を入手したり、本を読んだりすることで、次のアクションに繋がるヒントを得ることができるかも。

③イベントに参加する

NPO法人や企業といった団体が主催している環境保全活動に参加してみるのもおすすめ。実際に体験することによって、本やWebでの情報よりも自分ごとに捉えて考えられるようになります。

 

例えば、ごみ拾いに参加することによって「ごみ拾いの目」が養われて、何気なく歩いている道もよくよく見ると歩道の隅には多くの吸い殻が落ちているといったことがあります。また、日頃活動されている方とコミュニケーションをとることで、活動への熱い想いを聞け、刺激を受けることもできるかも。

 

もしもストランディング個体を見つけたら

本書のなかでは、もしも海岸でストランディングしたクジラに遭遇した場合の対応方法が紹介されています。多くの方にこの知識が広まるよう、こちらでも紹介させていただきます。

生きた状態の場合

すぐに地元の自治体(県市町村の担当部署)か警察、消防署などに通報し、そこから近くの水族館に連絡するのがベスト。

すでに死んでいる場合

この場合も地方自治体へ連絡するのが第一選択肢。このとき、できれば同時に、地域の博物館または水族館にも連絡を入れるといいそうです。これにより、粗大ごみとして処分されずに調査・研究に回してもらいやすくなります。

 

【目次】

はじめに

1章 海獣学者の汗まみれな毎日

2章 砂浜に打ち上がる無数のクジラたち

3章 ストランディングの謎を追う

4章 かつてイルカには手も足もあった

5章 アザラシの睾丸は体内にしまわれている

6章 ジュゴン、マナティは生粋のベジタリアン

7章 死体から聞こえるメッセージ

おわりに

【著者紹介】

著者:田島木綿子

国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹。 筑波大学大学院生命環境科学研究科准教授。博士(獣医学)。 1971年生まれ。日本獣医生命科学大学(旧日本獣医畜産大学)獣医学科卒業。学生時代にカナダのバンクーバーで出会った野生のオルカ(シャチ)に魅了され、海の哺乳類の研究者として生きていくと心に決める。東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号取得後、同研究科の特定研究員を経て、2005年からアメリカのMarine Mammal Commissionの招聘研究員としてテキサス大学医学部とThe Marine Mammal Centerに在籍。2006年に国立科学博物館動物研究部支援研究員を経て、現職に至る。獣医病理学の知見を生かして海の哺乳類のストランディング個体の解剖調査や博物館の標本化作業で日本中を飛び回っている。雑誌の寄稿や監修のほか、率直で明るいキャラクターにテレビ出演や講演の依頼も多い。 総監修に『海棲哺乳類大全』(緑書房)、共著に『イルカの解剖学』(NTS出版)、『続イルカ・クジラ学』(東海大学出版部)がある。

【商品詳細】

出版社:株式会社山と溪谷社

発売日:2021/8/5

言語:日本語

単行本:335ページ

 

\読みたい本がきっと見つかる!/


(参考1)田島木綿子『海獣学者、クジラの解剖する。海の哺乳類の死体が教えてくれること』株式会社山と溪谷社,2021

(参考2)環境省「POPs(Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質)」

なぜ、クジラの胃から海洋プラスチックごみ!?|「海獣学者、クジラを解剖する。」

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