カンキョーダイナリー

楽しく環境を学ぶWebメディア

着物転生デザイナー 安楽きわ|着物文化とサステナブルな衣服の未来

着物が生まれ変わる瞬間

制作プロセスの裏側

着物転生は、決して簡単な作業ではありません。まず着物を解き、洗い、反物に戻す。そこから、限られた布幅(約35cm)の中でデザインを構築していきます。さらに問題となるのが、経年によるダメージです。ほとんどの着物にはシミや傷があって、それを避けながら、どうデザインするかを考えています。同じ条件の着物はひとつとして存在しません。そのため、すべてが一点物であり、すべてが試行錯誤の連続です。

 

 

私はこの「一筋縄ではいかない。でも、だからこそ愛が生まれる。」というプロセスが「子育て」のようだな、と思っています。服は、着る人がいて初めて完成するものじゃないですか?だから、着物を転生する時には、生地に込められた想いを引き継ぎつつ、衣服にする。でもそれだけで終わりではなくて、誰かに選ばれ、袖を通された瞬間に初めて“転生”が完了するものだ、と思っています。

 


海外で評価される着物転生

実際に訪れたイタリアとカナダでの反応に差はありましたか?

はい。国によって評価の視点が異なることは私も興味深かったです。日本で衣服を見る時は第一印象で「可愛い」「綺麗」「おしゃれ」という見た目の感想にとどまってしまうことが多いのですが、海外だと違いました。主観にはなりますが、カナダでは文化やストーリー、サステナブルな取り組みそのものに注目が集まっているように感じました。

 

一方で、イタリアでは「構造」や「技術」に対するお声を多くいただいています。作品を掲載しているインスタグラムでも作品に対して「これは折り紙の構成だね」って現地の方からコメントされたことがあって。洋服で言う立体構成じゃなくて、私が作ったものが平面構成でできているから、破棄する部分が少ないということを、きっとご存知なんだろうなと思うんです。そこまで見てくれるんだって驚きました。


あと、日本と違うところでいうと「購入時に背景を重視する文化」が根付いてるのも衝撃を受けた海外の傾向の1つです。「どこで作られたの?」「長く使えるの?」というところを多くの人が質問してくるんです。 そうした質問が自然に出てくることに、日本との感性の違いを強く感じました。

 

 

カナダ バンクーバーでの日系祭りで注目を集めた「短冊ドレス」は日本の伝統行事「七夕」と着物文化を融合し、高校生や障がいのある子どもたちの願い、 そして、支援者の皆さまから寄せられた短冊を500枚縫い込んだドレス。

「役目を終えた振袖」を本体に、短冊部分にも、広島に贈られる折り鶴を再生した「平和おりひめ」や、サスティナブルを意識した和紙などコンセプト・ストーリーにこだわったドレス。
イタリア レイクコモ コレクション2026で披露された「日本酒ラベルドレス」は日本各地20の酒蔵から寄贈された64種の日本酒ラベルをもとに制作。

日本酒は、清らかな水と米を原料とし、長い歴史の中で育まれた発酵の知恵によって生まれる、 日本を代表する伝統文化のひとつ。 土地ごとの風土や酒蔵の個性が重ね合わされ、日本の水・米・発酵文化が紡ぐ「土地と記憶の物語」をドレスで表現している。
イタリア レイクコモ コレクション2026で披露された「日本酒ラベルドレス」は日本各地20の酒蔵から寄贈された64種の日本酒ラベルをもとに制作。

日本酒は、清らかな水と米を原料とし、長い歴史の中で育まれた発酵の知恵によって生まれる、 日本を代表する伝統文化のひとつ。 土地ごとの風土や酒蔵の個性が重ね合わされ、日本の水・米・発酵文化が紡ぐ「土地と記憶の物語」をドレスで表現している。

 

着物が海外で評価されるのはなぜでしょう?

私たちは着物を「昔からの伝統的な衣服」と捉えがちですが、実は現代の洋服にも少なからず影響を与えてきた存在です。例えば、第二次世界大戦前後の海外では、コルセットで体を強く締め付けてシルエットを作るファッションが主流でした。しかし、着物が海外に伝わり、そのゆったりとした構造や着方がデザイナーたちの目に留まったことで、「コルセットからの解放」という大きな流れが生まれたと言われています。

 

つまり、着物は単なる日本の伝統衣装ではなく、ファッションの歴史において重要な転換点のひとつを担ってきた存在なのです。だからこそ、今私たちが日常的に着ている「洋服」も、ルーツをたどれば着物の影響を受けて発展してきた側面がある。そのことをぜひ知ってほしいですね。

日本でサステナブルな服選びは浸透しないのでしょうか?

日本では「かわいい」「機能的」といった要素が購買の中心になりがちです。一方、海外では「背景」や「ストーリー」が重要視されます。海外では、それを聞くこと自体が当たり前なんです。ただし、日本にその意識がないわけではありません。もともと日本には「もったいない」という海外からも評価された文化があります。そういった文化があるのにもかかわらず、当たり前すぎてそれを忘れている。


じゃあどうすれば良いのか、というと、根付いた国民性を変えるのは難しいので、今と同じようにまずは第一印象の“かわいい”から入ってもらう。そのあと知らないうちに手に取った商品にサステナブルな素材やストーリー、エシカルな取り組みが付加価値としてついてくるという構造が理想だと思っています。一方、服を着る側としても、いま日本は多様性の時代と言われていて、女性が制服でズボンを選べたり、男性がスカートを履くというのにも抵抗がなくなってきていたりするじゃないですか。

 

だから、作り手と使い手の両方から歩み寄ることで、日本の文化が良い方向に向かっていけば良いなと思っています。

 


着物に宿るストーリー

着物を転生させる依頼で印象的だったエピソードはありますか?

ウエディングの二次会用のドレスを制作させていただいたときのお話です。

 

依頼主の女性は、幼い頃にご両親を亡くされ、その後はおば様に育てられました。その女性が小さい頃、実のご両親が生前に七五三の着物を仕立てていたそうです。女性は七五三の際、そのご両親が用意してくれた着物を着てお祝いをされたのですが、それ以降、着物はしまわれて、本人はその存在を忘れてしまっていたようです。でも実はその着物を、おば様が大切に保管してくれていて、やがて依頼主の女性が結婚されるときになって初めて、「この着物はあなたのご両親が用意してくれたものだった」というエピソードとともに手渡されたそうです。

 

大人になって着れなくなったその大切な着物をもとにドレスを制作してほしい、というのがその時のご依頼でした。

 

▲エスカルゴ(カタツムリ)がモチーフとなった同様の形状のドレスイメージ

 

着物は、可愛らしいピンク色で、子どもの幸せを願う七宝文様が全体に施されていました。その想いを受けて、ドレスは「エスカルゴ(螺旋)」をイメージし、くるくると回転しながら上へと昇っていくようなデザインに仕上げました。これは、幸せが重なりながら続いていくという意味を込めたものです。作られたドレスは、結婚式で大きな感動を生み「家族みんなが泣いていた」と聞きました。

 

この時のご依頼は背景や想い、ストーリーを衣服として昇華できた非常に良いお仕事だったと思っています。

 

 

【次ページ】:着物文化を未来へ

 


安楽きわ

Profile

安楽きわ

着物を現代ファッションへとアップサイクルする「和studio KIWA」を主宰する服飾デザイナー。2003年より着物の魅力と可能性に惹かれ、古布や着物を用いた洋服制作をスタート。現在は原宿を拠点に活動。

 

“着物転生デザイナー”として、単なるリメイクではなく、着物に込められた歴史や想いを未来へつなぐ作品づくりを追求。女優・歌手・舞踊家・フラメンコダンサーなど、多くのアーティストの舞台衣装も手がける。

 

また、2013年には着物文化を発信するアートプロジェクト「桃花節プロジェクト」を立ち上げ、企画・演出・衣装制作を担当。バンクーバーファッションウィークやイタリアでのコレクション発表など、海外でも高い評価を受けている。『VOGUE』や『ELLE』など海外メディアでも注目され、着物文化とサステナブルファッションを融合させた独自の表現を国内外へ発信し続けている。

着物転生デザイナー 安楽きわ|着物文化とサステナブルな衣服の未来

エシカルを広めよう!

  • Facebook
  • LINE

\この記事をシェア!/

  • Facebook
  • LINE

まとめ

共に環境対策に取り組む企業様